たった一つの勘違いなら。
ん? 富樫課長に本命彼女ができたっていう肝心の噂が流れていなくない?
そんな話があったら恵理花が真っ先に教えてくれるだろう。まして「ご飯食べに行ったの」なんて私が言った後だ。
ここはひとつ、無理やりでも私がちょっと頑張ったほうがいいかな。恵理花なら広めてくれそうな気もする。
「ね、富樫課長に彼女ができたって噂ある?」
「なに、どこ情報?」
案の定、食いついては来てくれた。アイスティーのグラスに目を落としながらちょっと言ってみる。
「うん、ちょっとご本人がそんなようなことを」
「なんだ。じゃ、詩織のことじゃないんだね」
「は?」
予想外の返しに変な声が出てしまった。
「高橋が秋の異動でソリューション二課に移って来てて。富樫課長が本気になりそうな子がいるとかなんとかって聞いたらしくて。 まさか詩織?とさっき思ったんだけど、その様子じゃ別の人か。課長なんて言ってたの?」
「緊張しててよく覚えてない。彼女がご飯に来れなくなったとかって」
「それならまだ『本命』ってこともないかもね。よし、まだチャンスはある」
それより別を探した方が、とは言えなかった。