たった一つの勘違いなら。

エレベーターでご一緒したことは何度もあるが、富樫課長が私にあんなアクションを取ったことはない。

つまり、西山さんの存在が彼に火をつけたということだろう。

西山さんは女性に対して少し軽いところがある上司をたしなめるふりをして、実は抑えきれない嫉妬心を見せていた。上司のほうはそれを知りつつ、あえて彼を挑発している。

そういうことなんだろう。


私の世界観が偏っていることは認める。

確かに私にはいわゆる『腐』を好む要素があり、同期の男性同士がじゃれ合っているのを見て「あの二人がもし付き合ってたとしたら」と考えてしまったことがなかったとは言えない。いや、何度もあった。

でもそうは言っても、そこまで本気で妄想していたわけでもない。日常生活に恋愛要素がゼロの私にとっての気晴らしというか、リアルな胸きゅん補充というか。

だが、今日のあれは私の妄想で片付けられるものだろうか。いや、違うでしょう。

社内恋愛はともかく、社内でいちゃついてる男女とかほんと仕事の邪魔って思っていたけれど。

男同士だったら、いや、あの二人だったら。

この恋は、きゅんとする。



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