たった一つの勘違いなら。
偽装デートというのは、1か月に1、2度ぐらいお声がかかるものかなと軽く考えていた。だが富樫課長曰く、「詩織は全然彼女っぽくなってないから慣れるまでは頑張ってもらう」ということだ。
彼女っぽくってなんでしょうか。
食事を終えたテーブルで向かい合って、雰囲気が出ないんだよね、って不満そうに言われてもよくわからない。
「名前で呼ぶ努力はしてる?」
「はい」
「偽装デートでも手をつなぐのはいいよね」
「はい、それくらいは」
「まあキスぐらいはいいよね」
「それはやり過ぎです」
「もしかして学習した?」
「しつつあります」
残念、と言いながらもむしろ嬉しそうに微笑まれた。
はい、はい、と答えているうちについ流されてなんでも頷いてしまうように誘導してる。仕事では私たちも時にあえて使う交渉術なのに、まんまと丸め込まれたことに後から気づいていた。
でも結局ノーとも言ってない。幸せになって欲しい、できることがあれば手伝いたいと言った気持ちは本心だ。
私以外の軽いお付き合いの方々と会ったら、もちろん身体の関係なども発生するはずで。心が伴っていないそういうことはできればやめて欲しいファン心理でもある。