たった一つの勘違いなら。

課長は椅子の背に身体を預け、先ほどの不満げなふりも諦めたように笑っていらっしゃる。

「やりにくいな、仕事ができる子との駆け引きは」

「駆け引きする必要を感じませんし、実は楽しまれているように思います」

「言いたいことは言うよね。あと口調が堅いのだけなんとかしようよ」

頬杖をついてリラックスしたように笑う。この笑顔が見られるのは役得であると思う。エレベーターで挨拶するだけでは知りえなかった表情。




そんな風に食事をした帰りには、家も近いため当然のようにマンションの前まで送っていただく。夜遅くなるときは歩いて帰ることはないので、ちょっと新鮮。

会社の人に見られたらと思うけれど、むしろ誰だかわからない程度に見られたほうがいいのだろうか。

「何考えてるところ?」

「課長の、あ、真吾さんの本命ってどんな服装が相応しいかなって」

「ほんと真面目だなぁ。今日みたいなのがいいんじゃない?あんまり派手な子も嘘くさいし」

そうか、きちんときれい系、みたいな感じを目指せばいいのかな。いつもまとめている髪を降ろしても、雰囲気変わるかな。

「俺は休日スタイルも気に入ってるけどね。あの気を抜いた感じ、かわいいよ」

あのやる気のないロングスカート? 意外過ぎて隣を見上げてしまった。男の人に受けるスタイルではないと思うけど。課長は私をそういう目で見てるわけじゃないってことなんだろう。

「ギャップがいいんだよ。仕事のときはまた違うんだよね。詩織と仕事もしてみたい」
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