たった一つの勘違いなら。
3章 接近の初冬
富樫課長との不思議なお付き合いは1カ月を過ぎたが、たぶん順調ということなんだと思う。
課長から連絡があったときに待ち合わせて食事に行き、帰りは家まで送ってくれる。
こんな風に冬のイルミネーションの季節を楽しむのは私には初めてで、偽装だろうが何だろうが王子様とのデートは楽しかった。
お忙しい人なので当日のお誘いになることもあり、私はなんとなく、いつでも出掛けられるようなスタイルで通勤するようになっている。
先輩の加納さんは自分のアドバイスのせいだと思ってくれているらしく「いいと思う」と褒めてくれる。
他の誰に言われるわけでもないから、そんなには変わらない感じらしい。
必然的に洋服代の出費が増えたが、富樫課長はまめに褒めてくれるだけでなく結局毎回ご馳走してくださる。
「たまには私も出します」
「年下の彼女に心配されるほど金なさそう?」
「そういうわけじゃ……」
でも本物でもないのに、毎回おごってもらうのも気づまり。気を遣うのも失礼かと思ったけれど、これがまだしばらく続くならそうも言ってられない。