たった一つの勘違いなら。


何度も会社付近の夜道を歩いていたせいもあるのか本気の彼女の噂もなんとなく広まっていて、でも相手は誰だかわからないということらしい。

いくつかの営業部やら秘書課やら何人かの名前が挙がっていることを、恵理花経由で教えてもらった。実際に関係のあった人なのかもしれない。

「なんとそこに詩織も入ってるから」

「え、なんで?」

「最近ちょっと雰囲気変わったとか言われてるよ。私もそう思う。でもさすがに富樫課長はないでしょ?」

誰がそう言ってるのかわからないが、意外と人はよく見ているらしい。恵理花が『なんと』というくらいだから大穴扱いなんだろう。

「変わった? 加納さんに言われて服装変えてみたりはしてるけど」

「加納さんって。上司でもせめて男性目線で変えなさいよ。どうせならもっと色気を出せ」

インナーの胸元を爪で引っ張られた。会社で色気出してどうするの。課長にだってそう言うのは必要ない。



恵理花はそれ以上は突っ込んでこなかったけれど、「なんかあったら話してくれるよね」と念押しだけされた。

ごめんね恵理花。なんで偽装なんかって聞かれたらうまく説明できないから、ちょっと難しいかもしれない。


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