たった一つの勘違いなら。
「勘違いされてると思うんですけど」

反論しなくちゃと思って焦った。

「私、処女ではないですから」

「……俺そんなこと言った?」

思った反応と違い、素で驚いているのがわかる。

「そう、思ってないですか?」

「いや、深く考えたことないっていうか」

だって。意外と奥手とか。



恥ずかしさに居ても立っても居られなくなった。

私のことを考えたことなんかないって。そんなもんだろう。なにを1人で謎のカミングアウト?

「あの、帰ります!」

「待って、詩織」

立ち上がったところで素早く腕を掴まれる。逃げようとしても男の人の力だ、敵うわけない。


「また何か誤解させたか。ごめん、ちゃんと話して欲しい」

「すみません。ただの自意識過剰で」

離して。見ないで。お願いだから逃がして。

でも逃がすどころか動けないようにがっちり腕の中に閉じ込められた。


身体中に力が入ってしまった私をなだめるように優しい声がする。

「そんなことないから。落ち着いて、詩織。傷つけたなら謝るし、誤解があるなら訂正させて欲しい」

息を吐いて力を抜いたら、腕の力も緩まる。でもそのまま離してはくれないようだった。
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