たった一つの勘違いなら。
「私警戒心が強いらしくて、それで処女だと思われてることが多いみたいで。でも違うので」

課長の腕の中で下を向いたまま、言い訳するみたいに話す。

「うん」

「だから一番中途半端で残念なタイプなんです。男の人にとっては」

「誰かにそう言われた? 俺も知ったらがっかりすると思った?」

そんな風にはっきり考えていたわけじゃない。ただ、扱いがいかにもそういう子を相手にしているみたいだったから。


恥ずかしすぎて首を振る。

「ごめんなさい、違うんです。フリなのにそんなの関係ないってわかってるんですけど、課長のことも騙してるみたいな気がして。男性が苦手とか言いつつ純粋なわけでもなんでもないので」

「詩織、俺が君の本物の彼氏だったらね、絶対にそんなことは言わせない」

背中を叩いてくれていた手が頬に触れて、私の顔をゆっくりと上げさせる。

「処女かどうかなんて気にするような男は、君には似合わない。君は、君のままで完璧だよ。詩織は俺の女神だよ」

きれいな顔がそう言って近づくのを、もう拒絶できなかった。


< 53 / 179 >

この作品をシェア

pagetop