たった一つの勘違いなら。
でもダメだ。私はこの人に甘えていい立場じゃないはずだ。
次に会う機会は家でなくレストランにしてもらって、あえて固い口調で切り出してみた。
「富樫課長、相談したいことがあります」
声には出さず、でももちろん嫌そうな表情を返される。
「仕事の相談なので、あえて課長と呼ばせてください」
「なに?」
「法務の説明会を担当するんですが、アドバイスをいただけないかと」
「詩織が話すの?」
「はい、いつも見てるので流れはわかるのですが、せっかくなのでソリューションや事業部の視点を知りたくて」
そこまで言うと、へえ、とテーブルの上で腕を組んで少し身を乗り出してくれた。
「説明会のゴールは?」
ゴール?いきなりそう来ると思ってなかったがこれはわかりやすい。
「契約言語を統一することのメリットや、他にも社内法務の意味を理解していただくことです」
「全然ダメだね」