たった一つの勘違いなら。
月曜朝のエレベーターホールに、なぜか恵理花がいる。
「どうしたの?」
「んー?早く起きちゃってさ」
わざとらしくあくびなんかしつつ、やってきたソリューションの課長さん達には「お先にどうぞ」と促してエレベーターをやり過ごした。
富樫課長が来るまで待ってるつもり?と聞くに聞けずにいたところにちょうど、待ち人が来た。
「おはようございます、富樫課長」
「おはよう、橋本さん。あれ、君は確か」
目を向けられた恵理花は張り切って答える。
「総務の野島です」
「そうだ、野島恵理花さん。今日は早いんだ」
「はい、詩織を見習って」
「2人は同期なんだっけ。仲がいいんだね」
私がよく恵理花の話をするから、そんなことはもちろん知られている。一応何も言っていないということも。
エレベーターを待ちながら、挙動不審にならないように恵理花に会話の主導権を譲った。
乗り込んだ後の階数ボタンも私が押して、斜め後ろの2人を意識しつつもどう話に入っていいかわからない。