たった一つの勘違いなら。
「これピアス?きれいだね」

目の端で、課長が恵理花の耳元に揺れるピアスに触れたのが見えた。たぶん、髪にも。

「彼氏にもらったの?」

「そんなのいません。自分へのご褒美です」

さすがの恵理花も素で恥ずかしそうに、小さな声になった。

「似合ってる」

きっと恵理花をじっと見て優しく微笑んでいる。見なくてもどんな顔をしているか想像はできた。


「じゃあまた」

そう言った課長が誰を向いていたのか、『開』ボタンを押していたから見なかった。


ドアが閉まった瞬間、小さな悲鳴のような声で恵理花がはしゃいだ。

「見た? 今の」

勝ち誇ったように耳元をアピールしてくる。

「あのくらいのこと普通にする人だよ。ファンサービスだから勘違いしない方がいいかも」

「されたことないくせに」

「あるよ」

「へえ?聞いてないけど」

「いちいち恵理花に言う必要ある?」

「ふーん、ただのファンとか言ってた割に本気じゃない?その格好も前よりは可愛いから、がんばれば」

恵理花は意地悪くそういうと、私たちの階でドアが開いたとたんムッとしたまま行ってしまった。
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