たった一つの勘違いなら。

こっちだってムカッとしたけれど、今のはまあ私が悪い。隠してるくせについ自分にもあるとか言ってみたりして。

でも、恵理花は確かに声を掛けたくなるような雰囲気のある女性だけど、なにも私の前であんなふうに声を掛けなくてもいいのに。




……私の前で、わざと?

カズくんとエレベーターで乗り合わせたときにしていたのと同じ構図?


私をからかって妬かせるためにやったのかもと急に気づくと、形容しがたい気持ちに襲われて思わず両手で口を覆った。

顔はおそらく真っ赤になっている。

恵理花と顔を合わせないように気を付けて自分の席について、ひんやりしたデスクに頬を付けた。

王子様の手口に気づく頃にはもう、抜けられないほど囚われている。もしかしたらカズくんも、そうなのかもしれない。

< 59 / 179 >

この作品をシェア

pagetop