たった一つの勘違いなら。
息を吸い直して謝ろうとした唇をふさがれる。黙らせるように、怒ったように。
やめてって、キスはしない約束って、言うべきところなのに。
でも私は気づいたらそのキスに応えていて、どうしようもない自分に呆れて、呆れながらその気持ちよさに酔っていった。
「俺のことはいつまでも……なくせに」
キスの合間に何か言われたが、聞き取れなかった。え?と聞き返すと、黙ってて、と小さく囁いてまた噛みつくようにキスは続いた。
頭の芯がぼーっとなるような、優しくてでも熱くて、力が抜けてしまうような。
彼の仕事用携帯が鳴ってそのキスが中断されるように終わった後、勝手に帰るわけにもいかないがこれはもうどうしていいかわからない、と私はそのままソファの隅で小さくなっていた。
仕事の話を終えて寝室から戻って来ると、「帰る?」と課長は普通に聞いてくれた。
今のことにはお互い触れない形らしい。よかった。何か聞かれても何も答えられる気がしない。