たった一つの勘違いなら。

「私はイライラすると、グラスとか割ります」

ちょっと人には言いにくいストレス解消法を披露する。真吾さんは反応に一瞬困った様子だった。

「君は本当につかみきれないな。どういう時に?」

「嫌なことを思い出したときとか。おすすめですよ」

全然勧めたくもないがあえて明るく言ってみる。

「俺が1人で皿とか割ってたら怖くない?」

「私も相当怖い感じです」

「いや、詩織は何しててもかわいいから。俺が片付けに行ってなぐさめるから、次に割った時は呼んで」

「はい」

なんだかくだらない話をした感じだけれど、少し元気を取り戻してくれたようだった。

私のストレス解消なんて大したことでもないしひとりで十分なのに、この人はこんなことでも優しい。


私があなたの煙草になれたらいいのに。いろんなことに疲れたりイライラしたときに、ちょっとだけホッとできるような何かに。

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