たった一つの勘違いなら。
「ついでに聞いてよかったら、お見合いは本当にされるんですか?」

思い切って聞いてみた。でも返事が返ってこない。

「真吾さん?」

真吾さんは長くふーっと息を吐いた。

「断れれば断りたいとは思ってる。結婚はまあ仕方ないかと思ってたけど、詩織に言われて自分の本心で動くってことも考えるようになった」

「そうですよ。真吾さんが望むことなら、なんだってできます」

「そうかな」

珍しい少し弱気そうな笑み。

「子会社への異動だって1年ですぐに戻ってこられたじゃないですか」

「あれは単にちょっとお仕置きされただけだって聞いてない?」

「いろんな噂、聞いてます。でも以前は主任クラスだった真吾さんが1年ちょっと子会社に行っていて、戻ってきて課長に昇進した。そしてたくさんの部下を率いて仕事をしている。それが事実です」

少しでも元気が出るといい。よくも悪くも注目されてしまうあなたは、でも確実に存在感を増している。

「周りの声なんて雑音です。真吾さんは真吾さんらしくいればそれだけで輝ける人です」

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