たった一つの勘違いなら。


例の台湾がらみの案件は、結局高橋くんが引き受けることになったと聞いて正直ほっとした。

西山さんを前に冷静でいられる自信がない。彼の方は穏やかなだけに居たたまれなくなりそう。



法務が混み合っていたので総務部のスペースを間借りしての打ち合わせ。恵理花は私たちに気づいていると思うが寄って来ない。

「言われてもピンとこないんだけど、これの何が複雑?」

「これ1件で終わるとも限らないでしょ? これを足がかりに他製品に広がる可能性もあるし、それにこの先方が作った書類、全般的に適当じゃない?」

「そんな契約書と関係ないことまで言われてもなあ。営業所にいるときはちっちゃい契約でゴタゴタ言われたことないけど、本社ってめんどくさいな」

この人はこの人でめんどくさいけれど、こういう面倒くささにはそれなりに慣れている。

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