たった一つの勘違いなら。
まさか誰にも言えないけれど、でも1人で抱えてるといらぬ妄想が沸いて困る。
頭を悩ませていた一日の終わり、総務部の野島恵理花が誘ってくれた。
お互い一人暮らしの私たちは、会社にほど近くかつ社内の人にはほぼ会わない小さなカフェで軽く食事をして帰ることがある。
隅の小さなテーブルでしばらく最近の社内の話をした後、恵理花は富樫課長の話を振ってきた。
「最近エレベーターで課長に会えたりしてる?」
「相変わらず時々だけどね」
「私も早起きしようと思ってるんだけどなぁ、でも月曜っていうのがね。しかも確率高くもないんだよね?」
タイミングを計っていれば会える確率はそれなりにはあると思う。恵理花には会えなかった日を強調して伝えてないとは言い切れない。
でもあれは、私の貴重なトキメキタイムだから。
「恵理花は総務の書類とか持って二課のあたりで転んでみたりすればいいんじゃない?」
冗談のつもりで言ってみると「やってみたけど」と返ってきた。さすが恵理花、すごい行動力。
「他の勘違い野郎が寄って来て終わった。それにフロア内よりも、二人きりになったほうが誘ってくれたりするかもしれないじゃん」
「月曜の朝から?」
「口止めされるらしいけど、ほんとにお誘いあるらしいよ? 社内でもそこそこ軽いお付き合いしてたりするらしいし」
それはたしかに私も聞いたことがあり、今回の件を謎に思っている点でもある。