たった一つの勘違いなら。


真吾さんとのデートは、二課の状況ヒアリングと来たる説明会に関する相談に集中していた。

意識的にそういう話ばかりするようにしている自覚はある。

冬の寒さは永遠に続きそうな気がするが、春はすぐ来る。終わりは近いんだから。

「仕事してみたいとか言ったの撤回。家でまで仕事の話したくないんだけど」

「だったら次のデートはいろいろ終わったあとにしましょうか」

「いつの間に俺は詩織の策に嵌められたんだろうな?」

ため息交じりの文句を言いながらも、結局は親身に相談に乗ってくれる。

この人はどうやら1人でご飯を食べるのが苦手らしい。飯食いに行くぞと連れて行かれることがよくあると、高橋くんも言っていた。

私がしょっちゅう呼び出される理由はそんなところにもあるようだ。家も近いし、すぐに来られる。

帰宅後に声をかけられる日は、必ず家の前まで迎えに来てくれて散歩スタイルで出て来てと言われる。

女性を1人で歩かせることを良しとしない。くだけては来ても、彼の中の王子様は健在だ。
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