たった一つの勘違いなら。


今日は最初に食事をしたあのフレンチビストロで、お酒はほとんど飲まずに相談をしている。

「海外事業部の方に話して頂く了解は取れたんですが」

「でも失敗談は嫌だって?」

「その展開を予想できたなら先に言ってもらえたら」

「失敗だったね」

楽しそうなこれは、きっとかっこつけているつもりが全然ない笑い方。でもこういう素の笑顔が意外ときゅんとすることを真吾さんは知らないだけ。

失敗事例から学ぶ形で、事前にどう動けば防げるかわかるようにしたいと話しておいたのに。

「失敗をさらけ出すのは確かに嫌でしょうけど……そうか。トラブルになりかけて、事業部が防いだ案件」

法務が解決したんじゃなくて海外事業部で気づいてくれたものがあった気がする。私が海外担当する時より前まで遡れば、確実に何か見つかるだろう。あとはその担当者が捕まれば。

「台湾絡みで何かあったかも」

「他人の失敗は面白いんだけどな」

思い出そうとしていた私に、まだ失敗路線を勧めるような真吾さん。だって、それは断られて。


……そうだ、私自身の失敗談。配属3年目か何かで調子に乗って判断ミスをした私の案件がある。思い出したくないけど。

「面白そうなのあった?」

全て見透かしたように真吾さんが笑った。

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