たった一つの勘違いなら。
法務部長の挨拶とお話の後、私が最初に契約書のチェック体制について話し始める。

はじめは声が揺れてしまった気がしたが、いつもお願いしている事項を説明していくとさすがに落ち着いてきた。

「そんなに色々わかっているなら法務で最終的に契約書をチェックすればいいだけだろう。そう言われることもあります」

プロジェクターで映し出された資料からちょっと離れて話をする。

「でも書類をチェックしただけでは間に合わないこともあるんです。お恥ずかしい話ですが、私の失敗を聞いてください」

効率的に完璧に対応したつもりだった私が陥ったトラブルを紹介した。訴訟になりかけた案件だ。

もし私がもう少し突っ込んで話を聞いていたら。もし法務部はうるさくて面倒くさいと疎まれることを厭わず、もっと深く契約事情に関わっていたなら。

「防げるミスでした」

ふーっと一度息を吐く。

「解決には、法務の先輩方と営業部のお力を借りました」

ここから、その案件に関わり最終的に解決してくださった方々がマイクを持ち説明に移る。なんとなく空気がぴりっとしたのがわかった。成功らしい。

個人的にも本当に情けなく法務部としても失態と言えるのだが、今回開き直って事例として使うOKをもらっていた。

私たちが頑張れないと、最悪こうなるわけなんです。

「さすがに今は少し成長し、うるさがられながらも皆さんの話に入り込ませて頂いています。これからも、法務の手が必要かなと思う一歩二歩手前から、ぜひ声を掛けてください」

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