たった一つの勘違いなら。
私の発表部分以外でも、他部署を絡めた事例紹介やトラブル案件への対応説明があり、メモをとる姿や手を挙げての質問が多く見られた会だった。

早めに法務を巻き込むメリットとその具体的なステップ。それが伝わったと信じたい。



「お疲れ様、橋本さん。いいアイデアだった。ここから気合入れて、どんどん仕事に絡んでいこうね」

法務部長もご機嫌な様子でいたわってくださった。

「お疲れ、詩織。私でもわかりやすかったよ」

会場運営を手伝っていた恵理花も、久々にちょっと声を掛けてくれた。



振り返った先で、席を立って私の近くを歩いていく姿と目が合った。

王子様のように微笑んでもくれなかったし、頷いてさえくれなかった。

でも確かに私をまっすぐ捕らえた視線。眉を少しあげただけの小さな合図。

『面白かった』

そう言ってると私にだけわかるメッセージのような気がして、下を向いて1人、嬉しさを噛み締めた。


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