たった一つの勘違いなら。
「あ、富樫課長!」
高橋くんが呼ぶ声で振り向いた。「ほら教えてやったんだし」と恩着せがましく言われる。
まったく、調子のいい人だ。でもどうせ誘われないよ、恵理花とは微妙に距離があるままでもあるから。
何かあった?と歩いて来た真吾さんに、書類袋をかざして見せる。
「法務の書類チェックお願いできますか?」
「ありがとう。今見ようか」
「もしお時間あれば」
じゃあそこで、とコーナー隅の小さなカフェテーブルを示される。
こんな人が通るところじゃなくてもと思ってから、もしかしてカズくんのそばだと嫌だとか、とうがったことも考えてしまう。
真吾さんは自販機でミルクティーを選んだ。珍しいな、いつもはブラックコーヒーしか飲まないのに。高橋くんもいることだしもちろん口にはしないけど。
「俺も同席した方がいいですかね」
「それより明後日の提案の件できてる?」
穏やかな質問系だが、命令にも聞こえた。
「すぐ出します。もうほんと、すぐなんで」
高橋くんが慌てた。恵理花に見直されたいなら頑張らないとね。