たった一つの勘違いなら。
「あ、詩織がエレベーターで誘われないのはね、真面目そうな女子は避けてるらしいからだよ。まあ気を落とすな」

わざとらしく肩を叩いてくるから言い返す。

「そんな大それた期待抱いてません」

「詩織はもうちょっと男受け狙えばすぐモテるのに」

「婚活するときには頑張ってみる。会社はいいよ、そういうの」

さすがにこんなかわいげのないパンツスーツで書類とにらめっこする毎日では、結婚してくれる相手もいないってことぐらいはわかっている。

恵理花のほうは、結婚して共働きならやっぱり社内がいいんじゃないかとにわかに社内恋愛を目指しているらしい。

「美人基準じゃないらしいってチャンスありそうだと思って。軽さ基準だったら、私とか結構いけそうじゃない?」

「軽く遊ばれてそれでいいの?」

何の躊躇も見せない姿にさすがに眉をひそめる。

「だから、まずは軽い気持ちでお近づきになって、そこから徐々に本気になってもらうの」

普通なら軽いと聞いた時点で敬遠されそうなものだが、こう言う方針の女性も多いのかもしれない。

恵理花は恋多き女性であり、本当に向こうに本気になってもらうということができるらしい。ただ、自分が飽きる。こないだもまた別れたばっかり。

どうなのよそれって思うんだけれど、まぁ人の恋愛観をどうこう言える私でもない。
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