たった一つの勘違いなら。
「そういえば富樫課長が結婚するって話どうなってんだろ」
誰かが聞いた。男性たちの中には課長と同期の人もいる。
「まあ意外と仕事もできちゃうからな。女癖だけが弱点とか言われてるから、身を固めさせてから役員に上げてくんじゃないの」
「取締役の娘さんってお話もありますよね」
恵理花がさらっと情報を出す。
「派閥がらみで政略結婚か。彼女っていうのはどうするんだろうな」
「愛人の1人や2人囲えるでしょう」
「うらやましいっすね」
「やだぁ、最悪。でも富樫課長ならありかも」
また全員で盛り上がり始めた話にも適当に相槌を打った。
確かに、愛人を囲う才能はある人だろう。大事にされてるような錯覚をさせる。他の誰かの気配を感じさせない。
軽い付き合いで幸せになれないって言ったのは私のはずだけど、実際どうなのか最近はよくわからない。