たった一つの勘違いなら。
その後また隣の人に色々と話しかけられて、気づいたら高橋くんはなぜかいなくて、なんだか私来る必要あったのかなとへこみながら、席を変わるタイミングも掴めずにいた。
「橋本、ちょっと」
とんっと肩を叩かれて、半個室の入口から高橋くんにコソコソと連れ出された。何か協力しろってことだろう。あの人につかまってるよりはいいや。
でもそのままお店を出るところの階段まで来た高橋くんは、スマホに向かって話している。
「呼んで来たんでちょっと変わります」
説明もなく渡されて嫌な予感はした。
「お電話変わりました、橋本です」
『恵理花と久しぶりにごはん中に、悪かったな』
低くて艶のある、でも怒っている声に言葉を失った。
『別に契約自体に不備はないんだけど、不安事項だって君が前に言ってたリストは高橋が持ってる?』
「はい、でも私の方でもメールします」
仕事の話だからとなんとか気持ちを立て直す。
『わかった。高橋に代わって』
「あの」
『高橋に代わって』
「はい」
有無を言わさぬ声に促され高橋くんにスマホを返して、でもそのまま戻る気になれなかった。