たった一つの勘違いなら。


「うわ、なにお前まだいたの」

切ってから高橋くんが大げさに驚く。

「あ、大丈夫かなって思って」

「平気平気。課長もともと明日から博多だから、そのまま台湾まで行くかもって」

「高橋くんはいいの?」

「西山が行くから」

2人で行くんだと驚いたのを勘違いしたらしい。高橋くんは少しムッとした。

「俺はいろいろ他が忙しいの。橋本との絡みは俺がって言われてたけど、案件としてはあいつも担当してるからさ。トラブル対応もいい経験になるんじゃないの」

「そうかな」

「別に橋本が気にすることじゃないって。こっちのミスじゃないから」

そう、ミスではないし、仕事のメールを1件入れる以上に私にできることもない。そんなことはどうでもよかった。


「ごめん、私ちょっと、先に帰ってもいい?」

戻る気にはなれなくて高橋くんに頼んでみる。

「あー、うん、いいよ。まあ、ちょっとあれはな、悪かったよ。荷物取ってきてやるから待ってて」

隣の席の人から逃げたいんだろうと勘違いしてくれた高橋くんに任せて、恵理花にも挨拶せず、そのまま1人で帰らせてもらった。

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