たった一つの勘違いなら。


自分の部屋に帰ってから、慌てて帰らない方が良かったかなと少しだけ思う。1人でいるのはちょっと嫌な夜だった。

怒っていた。呆れていた。見損なわれた。

何かを言うことも許されなかったけれど、言い訳だって思いつかない。

恵理花もいて、ごはんも食べていた。でも『恵理花とごはん』じゃない。そんなのは詭弁。

ごまかそうとしていた。バレなければ説明する必要もないと思っていた。あんな声で突き放されることを想像なんてしなかった。



飲み会に行くってもしも伝えてたらなんて言われたんだろう。

『男に隙は見せるなよ』

その程度のことは言われたかもしれない。喜んでいいのか悲しんでいいのか、わからなくなるようなことを。

行くなとも別にいいよとも言われる想像ができなかった。真吾さんにとっての私がなんなのか、最近はますますわからない。


とにかく私は勝手に嘘をついて、真吾さんはそれに怒っていた。謝り方もわからない。

狭い部屋にうずくまって、あの声を思い出していた。怒っているのにどこかからかうように響く、あの独特の声色。


< 96 / 179 >

この作品をシェア

pagetop