たった一つの勘違いなら。
その日もスマホは鳴らないまま、翌日のバレンタインデーが来てしまった。
法務部内は全員に配る義理チョコなしというルールが引かれている。なので2月になるといくつかチョコを用意しておいて、当日打ち合わせのあった人に渡すことにしている。
今年はもちろん別に1つ用意していた。当日に会えなくても、どこかで渡せるだろうと軽く考えていた。
ほんのちょっと前の私は、こんな事態を想定してなかった。ほんのちょっと先の未来はいつも予測できない。
「橋本、ちょっといい?」
もっともお呼びでない人がこんな日にわざわざやって来る。恵理花のところに行きなさい。
「台湾関係?」
「じゃなくてさ、あいつ今日どんな感じか知らないかと思って」
「なんか約束あるみたいって言ったらどうするの?」
「誰だかお前、知ってんの」
「6時になったら、この階の非常階段のところに来て。これ以上ノーコメント」
イライラしてとりあえず追っ払った。その足で恵理花のところに行く。