たった一つの勘違いなら。
「ちょっと来て」
話す隙を与えず、強引に階段に連れて行く。
「なに」
「6時にここに高橋くん呼び出したから。のこのこ来るからあの人」
「だったらなによ」
上目遣いだけどかわいさを狙ってない、恵理花の睨むような視線を受ける。
「いらないんだったらもらう。私ちょっと今、やけになってるから」
「別に勝手にすれば」
「後悔しても知らないよ」
「自分に言えば?」
グサッと刺さることが多すぎる、最近は。
「私も頑張るから、恵理花もがんばって」
目をそらして泣かないように堪えた。
「本気出した詩織に落ちない男なんていないよ」
「恵理花とあれ以上気の合う男も知らない」
言うだけ言って、先に戻った。それから集中して仕事をしまくって5時半過ぎに帰る。
恵理花に声はかけなかったけど、遠回りして席の脇を通った。