素直になれない
「指導者なんだから、もう少し気を配ってあげないと」


ちくり、と吹き矢の如く放たれた言葉は、鋭く刺さった。


日向先生に視線は合わせず頭をさげる。


「すみません。今すぐ戻って……」


やります、と続けるつもりだった。


「すぐにでも俺から逃げたいって顔だな」


「は?」


確かにその通りだけど、面と向かって言われれば戸惑いもする。


「リンは、いつも俺から逃げてばかりだな。今も……あの時も」


リン、と彼しか呼ばない呼び名で言われて動揺した。


『鈴音だから、リン、だな』


いつだったか彼がそう言って、私をリンと呼び始めた。


7年も経った今またあの呼び名で呼ばれるなんて……。


「別に……」


逃げてるのは事実だから、はっきり言葉にできなくて。


だけど……最初に逃げたのは自分じゃない。


言葉に出せず下唇を噛む。


それよりも……。


「その呼び名、やめてください」


「どうして。リンはリンだろ?」


「砂川です。皆ドクターはそう呼びます。だから、日向先生もそう呼んでください」


「どう呼ぼうが俺の勝手だ」


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