素直になれない
「あ……」


思わずそう漏れ出た声に、しまった!と思ったけれどもう遅い。


「……おはよう」


眼鏡を外し、眠そうに目を擦る日向先生から挨拶されてそれを無視できるはずもなく。


「……おはようございます。当直お疲れ様でした」


会釈をしながら足早に通り過ぎようとした私の視界に突如伸びてきた白衣の袖。


思わず足を止めた。


「……なんですか?」


「朝から不機嫌な声聞かせんなよ、てか、ちょっと来い」


手首をギュッと、掴まれて当直室の中へ引きずり込まれそうになった。


咄嗟にドアノブを掴んで中に入るのを阻止できたけど、振り返った日向先生からは氷点下の視線が向けられる。


「なに、それ。」


ドアノブを掴んだ私の手を見て、不機嫌な声を上げた。


「先生こそ何ですか?私は当直室に用なんてありません」


「お前になくても俺にはあるんだ。いいから入れって。こんなところで揉めてると逆に目立つぞ」


言われて周囲を見れば、チラホラと患者さんやエイドさん達の姿が見える。


こっちには気付いてないみたいだけど、先生の言うようにこのままじゃ逆に目立ってしまう。


渋々ながらもノブから手を離せば、あっさりと当直室へと引き込まれた。




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