素直になれない
何言ってんのよ……


どの口でそんな嘘を平気で言うの?


涼しい顔で、自分にはなんの非もないかのように。


最初に裏切ったのは、あなたの方なのに!


「リン……?」


私の言葉に解せないと眉を寄せ、言葉の続きを待つ彼に全てぶちまけてやろうかと思った。


「私はっ……」


私は知ってるのよ!


既に口から吐き出された言葉を止める術は今の私にはなかった……はずだったけれど。


診察室の扉をノックする音に我に返ることができて、唇を引き結んだ自分を今は褒めてやりたかった。


「日向先生、午後の診察始まりますよ?」


外来看護主任の藤堂さんが日向先生に声をかけながらも、その目は嫌悪を含んだ色で私を見ていた。


そんな彼女の視線にスッと熱が冷めた気がした。


決して気分のいい視線ではないけれど彼女には感謝しなくてはならない。


こんな所でブチまけていいわけない。ここは職場なんだ。


冷静にならなきゃ。


「あ、あぁ……分かりました」


日向先生がそう答え、私へと視線を向けたけれど、その視線を払うように体の向きを変えて診察を出た。


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