素直になれない
診察室を出て病棟へ戻るときも、ずっと頭の中は日向先生の言った言葉があった。


なんなの、あれ。


あれじゃあ、まるで私達が過去に付き合ってたように聞こえるし、離れた原因が私にあるように聞こえた。


違うのに……というか、私にそう思わせたのは日向先生の方じゃない。


私だって、付き合ってると思ってた。


だから、日向先生を追いかけてあの日会いに行ったのに。


「……っ!」


脳裏に浮かんだ映像を振り払うように頭を振った。


思い出したくない。


あんな、痛くて苦しい思いはもうたくさんだ。


思い出したくない。


そう思ったものの、午後の仕事は日向先生の言葉で頭がいっぱいだった。


彼と再会して今日迄、彼の言動に振り回されてばかりで、こんなの気にならないほうが嘘だし、気になればなるほどあの言葉の真意を問い質したくなる。


いっそ今日の仕事が終わってからでも問い詰めてやりたい。


なんて考えてしまうほどで。


「それ、相手のペースに乗せられて乱されまくってるよ」


真柴の言葉に「私もそう思う」と答えてイライラした。


だからこそ、敢えて彼の事を考えないようにしたくて真柴を強引に飲みに誘った。


だけど完全な人選ミス。


日向先生とのことを知っている彼女と行けば、自ずと会話の内容は決められてくる。


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