素直になれない
日向 和(ひゅうが やまと)。


二度と聞くことはないと思ったその名前を、どうして私が働く職場の朝礼で聞かされなきゃならないんだ。


しかも、今日から一緒に働く同僚として紹介されるなんて……悪夢としか言いようがない。


いっそ本当に夢ならいいのに。


頬を思い切り捻ってみて、自分の指の力に涙が滲んだ。


夢、じゃないよね。


現実なんだ。


これから毎日あの人と顔を合わせなきゃならないんだ。


……最悪。


「砂(すな)、終わったよ」


「は、?」


肩を揺すられて我に返った。


周囲を見ればガタガタと音を立てて椅子から立ち上がり、一つしかない扉から出て行く職員の姿。


朝礼終わったんだ。


砂、と私を呼んだ、同僚で看護師の真柴 彩月(ましば さつき)が怪訝な目で私を見下ろしている。


「あ、ごめん」


慌てて立ち上がり、出入り口に向かう波に混ざって歩く。


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