素直になれない

「りん!言えって。どこが痛いのか言わなきゃわかんないだろうが」


心配でたまらないって顔しながら、日向先生は私の身体をそっとさする。


騙されちゃダメだ。


この人は優しい顔をして近づいてきて、結局はまた私を裏切る。


熱くなった目頭を手の甲で拭って頭を振った。


「大丈夫です。どこもぶつけてません」


「でもお前、痛いって……」


「大丈夫だって言いましたよね。いい加減離れてください」


自分でも驚くくらい冷たい声が出た。


助けてもらってこんな態度されたら、誰だってムカつくだろう。


それが分かっていたけど、止まらなかったし訂正もできなかった。


それでも彼の顔をまっすぐ見ることができず、視線を逸らしたまま立ち上がり服の汚れを払った。


「大丈夫ならいい」


彼の声もまた冷ややかに響いた。

< 36 / 61 >

この作品をシェア

pagetop