素直になれない
「……や、まと?」


開いた目の向かう先は私の後ろ。


後から入ってきた日向先生だった。


やまと。


日向先生の下の名前を呼んだのだとすぐに分かった。


私が一度も呼ぶことはなかった名前を、目の前のこの人はあっさりと口にした。


心臓がドクッと嫌な反応をした。


「茜(あかね)……?」


日向先生はそうつぶやいてベットサイドへ近づいた。


「和、この病院に移っていたのね」


茜と呼ばれた彼女は気怠げに身体を起こし、日向先生へ手を伸ばした。


その手を躊躇うことなくとり、ベットサイドに椅子を引き寄せ座る日向先生から、私は邪魔にならないようにサッと離れた。


「眩暈、大丈夫なのか?また不摂生してたんだろう。医者の不養生って言うんだぞ」


呆れた口調。でもとても穏やかで優しい声音だった。


「患者さんの転院に付き添った後だったのよ。最近忙しくて寝不足だったからね」


「最近に限らず向こうはいつも忙しいんだろ」


「あら、私もあの病院は辞めたのよ。今は地元の総合病院で働いてるわ」


親しげに話す会話の内容から、彼女が医者で日向先生と一緒に働いていたんだってことが分かる。


綺麗な女医さん。


同性の私が見てもウットリするような雰囲気のある女性だ。



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