素直になれない
絡まった糸を解くには。
休憩を終えて外来に降りた時には、既に本庄さんは病院を出た後だった。


午後の診察が始まってからもやっぱり忙しくて日向先生に例の約束をこぎつける暇もなく、ただひたすら仕事に没頭した。


日向先生の隣で冷静に仕事ができたのは、ある意味本庄さんのおかげかもしれない。


引導を渡してくれて、私に1つの道を示してくれたのは彼女が話してくれたおかげだから。


無事に午後の診療が終わり、片付けを始めた。


「砂川さん、今日子供の迎えがあるからお先に失礼していい?」


シングルマザーの看護師さんが時計を気にしながらそう言ってきて、私は快くOKした。


早く迎えに行ってあげて欲しいもんね。


そして彼女が帰って、残った片付けを黙々とこなしていると日向先生が近づいてくる気配に気づいた。


「……リン」


「砂川です。……なんですか?早く片付けてしまいたいんで用件は手短にお願いします」


「……」


何かを言いたげにしているけれど、なかなか話し始めない彼に痺れを切らし片付けを続ける。


処置用のカートを片付け、薬品庫の鍵を閉め、その鍵を事務へ返す。


そこまでしてようやく自分のバッグを取りに診察室へ戻ると、日向先生が私を見て徐に立ち上がった。



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