素直になれない
願わくば、一生忘れていて欲しいし、忘れてしまいたい。


「……砂、砂ってば」


「へ?」


間抜けな返事に、またしても真柴の呆れた表情が目の前にあった。


「大丈夫なの、あんた。ちょっと顔色も悪い気がするけど……マジで調子悪いの?」


「いや、ない。大丈夫」


片言で返す私に真柴の顔は全然納得してないことが分かる。


だけど、今その事情を話す余裕もない。


後で話しておくか。


一人くらいは事情を知ってくれている人がいれば、楽かもしれない。


そう思い真柴を振り返った直後、狭い出入り口で後ろから地味に押されてしまう。


おわ、危ないしっ。


心の中で思わず声をあげつつ、足取りを気にして部屋の外を目指す。


それでもなんとか無事に広い廊下へ出たところで、急に手首を掴まれて、咄嗟に腕を引いた。


「!?」


釣られてきたのは、誰かの手。


がっしりとした骨太の関節、男性の手。


「……リン、?」


その声にビクッと肩が震える。

< 6 / 61 >

この作品をシェア

pagetop