Secret answer ~キミノトリコ~
「ありがとうございます。私こそ前見てなくて、すみません…あ」

そのとき捲り上げられていたパーカーの袖から覗いていた彼の腕に細く血が滲んでいるのが見えて、思わず声が出た。

「ちょっとだけ待って下さいね」
鞄の中からポーチを手に取って、中から絆創膏を取り出す。

「とりあえず、ですけど…服に付いちゃいけないので。あとでちゃんと傷口洗ってくださいね」
絆創膏を貼り終えて顔を上げると思いのほか近くに顔があって、至近距離で視線が交わった。

マスクをして帽子を被っているせいでその部分しか見えなかった瞳が大きく見開かれたのは…その数秒後。

「みゅーちゃん?」

…え?

人は本当に驚いたとき、声さえも出ない生き物みたいだ。少なくとも私は。
だって、にわかには信じがたくて。

『みゅーちゃん』。
私の名前である『まゆ』をどう聞き間違ったのか、彼は初めて会ったときからずっとその名前で私を呼んでいた。
正しい名前を教えても「僕だけ特別」だとかなんとか言い続け、直そうとはしなかった。

それは、そーちゃんだけが呼んでいた、私のあだ名。
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