詩集 風の見たもの
【つるぎ】

風の旅路は終わらない。土産話も終わらない。
風の精たち集まった。人気の話がまたひとつ。

とある田舎の村外れ、領主も知らない森の中、
小さな小屋に動く影、若い男女がデート中。

二人の家は仲悪く、おおっぴらには会えないが、
二人の愛は純粋で、会えるだけでももう十分。

森にはあまた、精霊が、二人の行末気になって、
小屋の周囲に結界を張り巡らせて守ってた。

二人はともに精霊の善き隣人であったから、
なんとしてでもこの二人、添い遂げさせてやりたかった。

男は騎士だが平民で、女の家は貴族だが、
栄えていたのは大昔、抜け殻の様なものだった。

ある時、村に大量の魔物がこぞって攻めてきた。
魔物は魔人に率いられ、無類の強さを発揮した。

魔人は魔物を降り立たせ、女を攫って飛び去った。
女の父は悲しんで、娘の奪還願い出た。

領主は砦を護るだけ。誰もが尻込みする中で
男が一歩進み出て、雄々しい声で言い放つ。

「もしも彼女を助けたら結婚させてくれますか?」
女の父はたじろぐが、愛する娘は助けたい。

「お前に何の義理がある?」
男の父が驚いて、怒り顕わに問いただす。

「二人は愛し合ってます。理由はそれで十分だ」
言うが早いが剣を抜き、男は女の父に云う。

「お許し得ずとも参ります。それが私の愛だから。
 彼女が無事ならそれでいい。私の願いはそれだけです」

その時強い風が吹き、剣は男の手を離れ、
水平になると足元の、膝の高さに浮遊して、

主に乗れと促した。男はゆっくり足を載せ、
「いざ!!」と掛け声かけた時、再び風が巻き起こり、

彼を空へと導いた。風に負けじと精霊は
彼に新たな剣授け、巨大な力を宿らせた。

魔人もこれに気がついて、手下の魔物を差し向けた。
男はこれを次々と、当たるを幸い切り倒し、

ちぎっては投げちぎっては投げ突き進み、
遂に魔人と一騎討ち。見事にこれを討ち取った。

女は無事に生還し、晴れて男と結ばれた。
その後二人の間には、一男一女の子が出来て、

一家揃ってかの小屋で、過ごす姿が見られたが、
いつの間にやら気がつけば、誰もいなくなっていた。

両家は既に和解して、良い親戚になってたが、
どんなに必死に捜しても、見つける事は出来なくて、

森の精霊やってきて、四人を何処かへ連れ去った、
と、村人たちは噂した。それ程までに精霊に

愛されたのは真実だ。風はこの後旅立って、
事の顛末知らないが、別な風の話だと、

その後結界無くなって、小屋があった所には
精霊の剣があったという。
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