傷つけたいほどに憎み、輝く君を思う
あいつの頭を片手で抱え、唇にキスをした。


こいつは、きっと俺からキスされたうれしさとショックで、混乱し、俺がこの場で何をしているかは忘れ、気づかないだろう。


「ひ、ひどいよ…いきなり…」


あいつは驚いたように手をばたつかせ、体を引き離した。


走って階段を駆け上り、階段の上の非常口の扉が閉まる音と叫び声が聞こえた。


俺の計算通り、何事もなかったかのように出て行ったことが分かった。


力が抜けて、そのまま冷たい床に体を倒し、薬の瓶をそっと頭に当てた。


気持ちなんて関係ない。


好きな女でなくても、このバンドを続けるためなら俺は体を売れる。


それがたとえ、この世で最も憎い女でも…

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