偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
「ひっ…ひさしぶりっ」
稍は引きつった笑いを貼り付けて言った。
「なにが『ひさしぶりっ』や。
再会してから一ヶ月経っとるわ、ボケ」
……ぼ、ボケって、なによっ!
人が勇気を振り絞って挨拶してんのにさっ!
「いっ…いつから気ぃついてはったん?」
向こうがいきなり関西弁を遣うから、こっちもそうなった。
「おまえは、おれに、いつから気ぃついとったんや?」
質問を、質問で返された。
思わずムッとしたが、稍が答えようとして口を開いた瞬間、
「初出勤の日に、エレベーターから降りて、このフロアに入って、おれを見かけたときやろ?」
言葉を被せられた。
……なんでわかるん?
「おまえ、おれの顔見て固まっとったからな。
おれも、おまえのこと、すぐにわかったぞ」
窓から差し込む西陽がリムレスの眼鏡のレンズに反射して、キラリと光る。
「おれはエントランスのとこで、やけどな」
「あたしと一緒のとこやんかっ」
稍がすばやくツッコむと「アホか」と心底呆れた表情をされた。
「この階の会社の入り口と違うわ。エントランスって言うたら、テレコムセンターの入り口やないか」
……それって、このビルの入り口で、もうすでに見られてた、っていうこと⁉︎
稍の顔から血の気が引いた。
体感温度が、一気に氷点下に突入した。
いっそのこと、このまま「凍死」したかった。