偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
「おまえ、ダサい格好してるくせに、生意気にもエルメスの時計してるらしいやんか?
それは、石井も気づいとった」
稍はこくりと肯く。
今も左手首につけている、クリッパー・ナクレのことだろう。ボーナスを叩いて、がんばって買ったものだ。
「おまえ、ダサい格好してるくせに、いつもええ香りさせとるらしいやないか?……って、させとるな」
稍はこくりと肯く。
ザ・ボディショップのジャパニーズチェリーブロッサムのことだろう。あの香りをつけると評判がよかった。
「それから、着ている服が実はダサくなく、さりげなく流行も採り入れていて、とにかくオシャレだと、渡辺が言うとったぞ」
稍は「そ、そうかなぁー」と大いに照れた。
頬がほんのり赤くなっていた。
青山はなんだかムカついたので、
『後ろ姿だけは前に回って顔を見てみたくなるほどスタイルいいかも』
と山口が言っていたことは割愛した。
「決定的なのは、おまえが会社にいつも持ってきている携帯マグのイニシャルが……」
「あああぁっ、『やや』の『Y』やったぁ!」
ようやく気づいた稍は、頭を抱えて叫んだ。
「騒ぐな。やかまし。黙れ」
青山からぴしゃり、と制される。
「おれがありがたい親切心で、
『名字の方のイニシャルじゃないのか?』
って、そんなわけないやろ⁉︎っていうめっちゃ苦しいフォローをしといたったぞ。
渡辺が信じてるかどうかは知らんけどな」
……そんなまったくありがたみのないフォローなんか、要らんねんけどっ!
せめて、「彼氏のイニシャルじゃないのか?」くらい言うてよっ!
「それに会社の創立記念パーティには、おまえ、本当の姿で来てたやろ?渡辺と山口は見とったぞ。それから、こないだの海賊の店では石井もおまえの本当の姿を見たしな。
まぁ、だれもおれとのつながりまでは知らんけどな……おまえは、なにもかもが甘いねん。ボケ」
……ううぅっ、なにも言い返せない。