偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
そして、10:00 a.m.
稍はGAPのパーカーにユニクロのスキニーパンツの姿で、有明テニスの森駅近くのそびえ立つタワーマンションの前にいた。
右手には大きな銀白色のスーツケース、左手にはオレンジのキャリーバッグを携えていた。
海外旅行用のスーツケースも国内旅行用のキャリーバッグも、両方ともハンズプラスのシリーズである。
これらは先刻、タクシーの運転手がトランクから下ろしてくれた。タクシーは、青山が稍のマンションまで回したものだ。
稍のスマホから、携番やメルアドやLINEのIDだけではなく、住所までも入手していたようだ。
突然クビ宣告され、いくら魂を抜かれていたからとはいえ、ここまで無防備に個人情報を抜かれていたとは……
稍はエントランスのインターフォンで、青山に到着した旨を伝えた。
『コンシェルジュには話を通してある……入れ』
相変わらず、氷点下な声だった。