偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
「さ〜と〜ふ〜みぃ……っ⁉︎」
稍は知らず識らずのうちに、敬称をすっ飛ばして唸り声を上げていた。
稍の記憶が正しければ、つい先刻『おまえが使ってもええ部屋』だと智史は言ったはずだ。
目の前には、引っ越してそのままかと思われるダンボールが、うず高く積まれていた。
……物置にしてる部屋やないかっ!
どこが「一部屋空いて」んねんっ⁉︎
ここで寝ろって言うんかぁーっ⁉︎
「なんや?」と智史が稍の顔を見る。
「あたしっ、寝る場所だけは、周りになんにもないとこがいいねんけどっ!」
ちょっと、それだけは、絶対に、譲れないのだ。
天沼の1Kのマンションには、造り付けのクローゼットに備え付けのシングルベッド、そして折りたたみの軽量なローテーブル、あとはぶつかっても大丈夫な無印のクッションソファしか置いていない。テレビがないから、テレビボードもない。
「あぁ、おれも一緒や。せやから、なんやかやと、ごちゃごちゃ物を置いとる女の部屋でなんか、安心して寝てられへん」
……智くんもそうやったんか。
実は、稍もまったく同じ理由で、つき合った男の部屋に泊まれなかった。
「心配すな。おれの寝室にはベッドしか置いてへんから。しかも、キングサイズやぞ、喜べ」
稍のスーツケースを部屋の端に置いた智史が、平然と答えた。
……もしかして、一緒に寝るっていうこと⁉︎
まだ、あたしを麻琴さんの代わりのセフレにするつもり⁉︎
「おまえ、なかなかおれ好みのキスするしな。神経質なおれが、おまえやったら隣で朝まで寝てもええ、って言うてやってんねん。喜べ」
……先刻から「喜べ」「喜べ」って言うてはるけど、いったいどこを「喜べ」っちゅうねん⁉︎