偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

「ところで、おまえ、冷蔵庫はええんか?」

怪訝な顔で、智史が訊く。先刻(さっき)までの稍がかなり急いでいたように見えたからだ。

「あああぁっ、忘れてたっ!」

稍は「物置部屋」から、あわてて飛び出した。

今度こそ、リビングの端にあるキッチンの冷蔵庫の中に、持ってきた食材などを入れる。
両開きできる扉の大きな冷蔵庫には、ビールなどの酒類と、手早く酒の肴にできるようなチーズくらいしか入ってなかった。

あとから智史がキッチンにやってきた。

「あの部屋は、おまえも『物置』として使ったらええからな」

さも親切ヅラをして言う。

「そしたら、普段あたしはどこにおったらええんよ?」

稍は片眉を上げて訊く。

「リビングでおったらええやないか」

智史がさも当然のように答える。

「そしたら、その間、智くんはベッドルームで仕事してるとか?」

ここは2LDKの間取りである。
たぶん、ベッドルームを「書斎」として使っているのだろう、と稍は考えた。

「おれはいつもリビングで仕事しとる。せやから、こないに散らかってるんや……あぁ、安心しろ。ベッドルームには、なぁんにも置いてへんから、散らかってないぞ」

……えっ、もしかして、リビングでもベッドルームでも一緒、ってことなん⁉︎

稍はくらり、と目眩(めまい)がした。

……まるで「夫婦」やんかぁ。
いや、ほんまもんの夫婦でも、そないに一緒にはいぃひんで。

「おい、()よ片付けろや。日ぃ暮れるぞ」

いつの間にかリビングに移動した智史が、ゴミ袋を片手にローテーブルの郵便物を選別していた。

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