偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

後ろから低い声が聞こえてきた。
神経質な顔が、冷ややかに稍を見ていた。
入社式を終えて戻ってきた青山だった。

実は彼もイケメンだった。
しかも、魚住課長と並び称されるくらいの。

だが、リムレスのレンズの奥にある鋭い切れ長の眼にスッと通った綺麗な鼻筋は、端整過ぎて近寄りがたいものがあった。

また、理詰めで相手を完膚なきまでに論破する性格と相まって、醸し出す雰囲気は「クール」を通り越して「ブリザード」にまで凍え切っていた。

なので、社内の女子社員たちも憧れはするが、遠巻きに見つめるしかなかった。

「……渡辺さんからお客様アンケートの集計を指示されて、今終わったところです」

稍は目を伏せて答えた。
とにかくバレたくないからだ。

「そうか。では、社内メールに添付して、僕と渡辺のところに送ってくれ」

ノートPCのメーリングに関する設定は、すでに終わっていた。

「承知しました」

稍は俯いたまま答えた。

そのとき、麻琴から呼ばれたので、稍は立ち上がった。

「お昼に行っていいわよ。社食、案内しましょうか?」

稍は「ありがとうございます。大丈夫です」と断った。

朝から慣れない環境で気疲れした。
どうせ派遣は社員割引もないし、少し一人きりになりたかった。

青山が稍の隣の椅子を引いた。タブレットと書類をテーブルの上に置いている。

稍はギョッとした。


……まさか、午後から隣で仕事するんじゃないでしょうねっ⁉︎

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