偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎

その様子をぽかんとした様子で眺めていた稍に、

「あっ、申し遅れました……こいつがなかなか紹介してくれへんからね」

と言って、横目で智史をぎろっと睨んでから稍に名刺を渡す。

名刺には【小笠原(おがさわら) 武尊(たける)】と記してあった。

「稍、その名刺は家に帰ったら速攻で捨てろ」

智史が取りつく島もなく言い放つ。

「おまえっ、それが中学・高校時代をともに過ごした大親友に言う言葉かっ⁉︎」

智史と小笠原は、全国的にも有名な関西の中高一貫の男子校で机を並べた仲だった。

「今日はアテンドしてやる上に、従販で落としたろ、って思てたのに」

このデパートでは従業員販売が外商と同じ三割引のはずだ。

「智くん……失礼やん」

稍はつないだ手をくいくいっ、と引いた。
なにを買うのか知らないが、一円でも安く買うことが至上の喜びなのが関西人だ。

「さ…『さとくん』?」

小笠原はまた、ありえないものを見るかのごとく驚愕の表情を浮かべた。

しかし、次の瞬間、身を二つに折って大爆笑しだした。

「やっぱ、すっげぇわ……半端ないし……『ややちゃん』の威力」

王子さまキャラをぶっ壊して「腹、()てぇ」とヒィヒィ笑っている。

「稍……外では金輪際、そう呼ぶなよ」

視線だけで人の息の根を止めるかのような凄まじさで、稍は智史から睨まれた。

< 262 / 606 >

この作品をシェア

pagetop