偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
その様子をぽかんとした様子で眺めていた稍に、
「あっ、申し遅れました……こいつがなかなか紹介してくれへんからね」
と言って、横目で智史をぎろっと睨んでから稍に名刺を渡す。
名刺には【小笠原 武尊】と記してあった。
「稍、その名刺は家に帰ったら速攻で捨てろ」
智史が取りつく島もなく言い放つ。
「おまえっ、それが中学・高校時代をともに過ごした大親友に言う言葉かっ⁉︎」
智史と小笠原は、全国的にも有名な関西の中高一貫の男子校で机を並べた仲だった。
「今日はアテンドしてやる上に、従販で落としたろ、って思てたのに」
このデパートでは従業員販売が外商と同じ三割引のはずだ。
「智くん……失礼やん」
稍はつないだ手をくいくいっ、と引いた。
なにを買うのか知らないが、一円でも安く買うことが至上の喜びなのが関西人だ。
「さ…『さとくん』?」
小笠原はまた、ありえないものを見るかのごとく驚愕の表情を浮かべた。
しかし、次の瞬間、身を二つに折って大爆笑しだした。
「やっぱ、すっげぇわ……半端ないし……『ややちゃん』の威力」
王子さまキャラをぶっ壊して「腹、痛てぇ」とヒィヒィ笑っている。
「稍……外では金輪際、そう呼ぶなよ」
視線だけで人の息の根を止めるかのような凄まじさで、稍は智史から睨まれた。