偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
なぜだかはよくわからないが、すでに名前は知ってもらっているみたいであるけれども……
「あ…あの……麻生 稍です。本日は、お世話になります」
稍は「三割引」のために頭を下げた。
昨日は、インテリアショップのショールームで結構な金額を使っていたのだ。
いくら稼ぎの悪くない智史であっても、散財はよくない。
それから、「やぎやや」は智史が嫌がるので「麻生」にしておいた。
「あ、ややちゃんは気を遣わんといてな。
改めまして、小笠原 武尊です。
……ややちゃん、めっちゃ美人やなー。スタイルもええし。なぁ、青山なんかと結婚するのはやめといて、おれにせぇへんか?
一応、このデパートの社長の息子やねんけど」
……えええぇっ⁉︎
稍は仰け反った。
ここは江戸時代から続く、老舗中の老舗である華丸百貨店である。
「他人の嫁になる女を口説くな、ボケっ。
稍、相手にするなよ。遊ばれて捨てられるだけや。小笠原はこの前、松波屋のとこの娘と見合いすることが決まった」
智史が、それ見たことか、という笑みを口の端に浮かべる。
華丸は松波屋とはライバル関係にあるが、合併する噂が出ていた。
「青山っ、思い出させるなよっ!
……所詮、おまえらみたいな『恋愛結婚』のヤツらにはわからへんわ」
ええとこのお坊ちゃまには、一般ど庶民にはわからないことがあるらしい。