偽装結婚はおさない恋の復活⁉︎
「稍……」
不意に、智史が稍の耳元に口を寄せ、囁いた。
「あのアホ野郎がおまえに押しつけてきた指輪より、ダイヤはデカいか?」
稍はびっくりして、目を見開く。
「全然カラットが違うよっ!」
元婚約者にもらって突っ返したのは、〇・三一カラットだった。ダイヤのカラットは、リングのアームの裏側に必ず刻印してあるため稍は手元にあった時分に目を眇めて確認していた。
もちろん、ティファニーで〇・三カラットは悪くない。普通のサラリーマンなら、かなりがんばった、と胸を張って言えるものだ。
今、目の前にあるハーモニーが別格なのだ。
左手薬指できらきら光る輝きに目を落とすと、稍の頬がふんわりと緩んだ。
「……そうか」
智史は満足げに笑って、稍の頭をぽんぽん、とした。
「おーい、二人の世界に入んじゃねえよっ!
……次は、結婚指輪だぞっ」
ムンクの顔からかろうじて立ち直った小笠原が、叫んでいた。